発注側仕様不備をどう扱うべきか
定期的に技術面での問題がとりあげられている住基ネットの話題です。
大阪府吹田、箕面、守口の3市の住民4人に住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)からの「個人離脱」を認めた大阪高裁判決を受け入れ、上告を断念した箕面市が、原告住民(1人)の「住民票コード」を削除する検討を始めたところ、削除すると、ネット上で情報やサービスを提供するコンピューター(サーバー)がダウンする危険性があることがわかった。削除できても、最大で3500万円の経費がかかることも判明。市は今後、専門家による検討会を発足させ、府や国と協議する。市情報政策課によると、住基ネットは、市から府のサーバーを経由して国のサーバーにデータが蓄積される。市と府のサーバーは30分ごとに交信され、転入転出などのデータ更新が行われており、原告の住民票コードを削除するには、市だけでなく府や国のサーバー内のデータも削除する必要がある。
住基ネットの仕様に、「住民からの申請による台帳からの削除」という項目がないんですよね。裁判してでも離脱させないくらいですから、お役所としてシステムに組み込んでおくわけがありません。仕様書策定時に検討しようとしても、「○○君、この「申請による削除」って項目はまずいんじゃないかね~、これではまるで行政が削除することを認めているようなものじゃないかなぁ」などと、取り除かれていることでしょう。
受注側としては、発注側が仕様として検討しなかった項目も、工数が増えない範囲で仕様変更に耐えられるようにシステム設計するものです。しかし、明示的に仕様から除去された項目については「安全な仕様」と解釈して、工数を下げる設計をくむ傾向が強くあります。
でも・・・、
現行システムでは、データを削除できるのは住民が死亡した場合か、日本国籍を離脱した場合だけ。どちらの入力もないまま1人少ないデータで府のサーバーと交信すると、「エラー」表示され、約12万7500人分の市民データが入った市のサーバーがダウンする可能性が出てきたという。削除できた場合、その後の運用方法は▽原告を除く全市民のシステムを作り直し、原告を含めた旧サーバーは接続せずに残す▽サーバーから原告のデータだけ削除し、原告分は文書で管理する――の2通り。作り直すには1500万~3500万円かかり、文書で管理する場合には、住民票や納税通知書の交付など、原告に関する手続きはすべて手作業となる。
「原告を除く全市民のシステムを作り直し」・・・ってDBのデータ再構築ってことですよね。これだけで1500万円ってどんなシステムなんでしょう。
住民基本台帳のデータ構造は調べたことないので、まったく想像なんですが、おそらく紙で管理していた住民票の仕組みをかなりそのまま踏襲しているのだとおもいます。紙ベースの住民票には、「離脱」というステータスはないわけで、電子システムにも「離脱」の概念が仕様に入っていないのでしょう。
ここには住民基本台帳ネットの哲学がからんできます。
① 紙 -(リプレース)→ ネット
② 紙(マスター) -(電子化)→ ネット(レプリカ)
日本の電子住民票システム「住民基本台帳ネット」は①「リプレース」を目的にしています。順調に移行できた際には、紙のシステムは破棄しても構わないという思想です。一方②「電子化」は、ネット化による利便を提供するだけで、マスターデータは紙で扱うことを基本とする思想です。こちらは、①にくらべてコストがかかりますが、現行の紙のシステムをベースにしているのでいろいろな意味で安心です。
発注側は当然、①、②の検討をおこなったうえで前者を採用しているわけです。こういう状況では開発が「①のほうがxxxxxxな観点から見てよいとおもいます」なんて言ってたら受注できません。作り直しで1500万円かかろうが、15億円かかろうが開発する企業にとっては仕事ができるのでHappyなわけです。(仕様策定の開発コンサルティングを請け負っている場合は話は別です。)開発会社の現場部門からしてみれば、「あ~あ~言わんこっちゃない・・・」という声がでているんでしょうね。
しかし、この住基ネットってやつはいったいどれだけの人がシステムを導入する目的を把握しているのでしょうね。使う側も運用する側にとっても、利便性向上しているとはとても思えないのです。
長男出生届けたら、戸籍に「死亡」 両親が奈良市提訴へ2006年12月27日06時13分
市役所に長男の出生届を提出したら戸籍に「死亡」と書かれ、著しい精神的苦痛を受けたとして、奈良市在住の両親と長男が27日、同市に100万円の損害賠償を求める訴えを奈良地裁に起こす。市は「戸籍を電算化し、本来の状態に戻す」との約束文を両親に渡しながら、放置していた。原告側は「一連の対応はその場しのぎで、不法行為にあたる」と指摘している。原告側によると、長男は90年6月に生まれ、父親(43)が同市役所に出生届を提出。02年1月、長男の戸籍を確認したところ、生まれた日付で「奈良市で死亡」と記載されていたのに気づいた。市は直後に修正したが、「再製」の文字が残り、不自然な戸籍になったという。
当時の担当者は「2、3年後に戸籍を電算化するので、再製の文字は消える」などと記した約束文を両親に渡したが、担当部署内でこの文書は引き継がれず、戸籍の電算化もされていない。原告側弁護士は「ミスを闇から闇に葬るような市の姿勢をただすのが提訴の目的」と主張する。
市によると、戸籍の電算化に必要な機器の設置費用などを来年度予算案に盛り込むことを検討中という。林啓文・市民生活部長は「戸籍の誤記や文書が引き継がれなかった点は市側のミス。現在は誠意を持って対応している」と話す。
システム屋さんとしては・・・、「管理者トランザクション操作で、エンドユーザに表示不要な項目が出力されるのは仕様不備」とおもっちゃいます。でも、紙ベースの運用で「再製」という操作が実装されていることに、戸籍システムを作った人は優秀だったんだなあと感心してしまいます。
この訴えているご両親・・・電算化されたとしても操作が表示されないだけで、システムには死亡→再製の処理は残り続けますよ?
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